株式会社においては、取締役等いわゆる役員と従業員が働いており、いずれに対しても会社から給与が支払われます。
しかし、同じ会社で働いていても、法律上における株式会社と役員間の関係性と、
株式会社と従業員間の関係性はまったく異なります。
具体的には、前者は委任契約、後者は雇用契約が締結されているのが通常です。
今回は、2つの違いについて説明します。
株式会社と役員は委任関係にある
会社法は、株式会社と役員の法律関係を委任関係であると明記しています。
これは、両者の間には、民法上の委任契約の規定が適用されることを意味します。
では、委任契約とはどのような契約なのでしょうか。
委任契約の特徴は『使用者に従属していない』という点にあります。
会社から、業務上の指揮命令を受けないため、受任者が行う業務内容には裁量が認められています。
たとえば、役員は出勤時間が明確に決められているわけではなく、その結果、残業代も発生しません。
一方、会社と従業員の法律関係は雇用関係です。
これは、株式会社と役員間において民法上の雇用契約の規定が適用されていること、
その他の各種労働法(労働契約法等)の適用があることを意味します。
雇用契約の特徴は、委任契約と逆で『使用者に従属している』という点にあります。
勤務場所や勤務時間は雇用契約締結時において確定し、使用者から指揮命令も受けます。
また、就業規則の適用もあり、勤務時間を超過して勤務した場合は残業手当が付きます。
使用者からの解雇が労働契約法上極めて難しいとされていることから、
法的地位はかなり強固だといえます。
役員と従業員の法的地位は、一見矛盾するように思えるのですが、
必ずしもそうではなく、両者の地位を併せ持つような法的地位もあります。
いわゆる『使用人兼務役員』と呼ばれているものです。
これは役員のうち、従業員としての身分も併有し、
実際に従業員として職務に従事している人のことをいいます。
ただし、代表取締役、専務、常務などそのほか
一定の要件を満たす人は使用人兼務役員にはなれないものとされています。
また、法人税との関連で、使用人兼務役員への報酬は、
通常の役員と同様に、原則として損金算入が認められています。
しかし、役員としての報酬と従業員としての報酬の総額が不相当に高額な場合は、損金算入が認められません。
このように株式会社と役員あるいは従業員の法律関係は、
場合によっては混在することもあり、税法上の処理等対応の仕方が変わってくることがあります。
働き方改革の導入により雇用に関する様々な悩みが増えたようです。
役員と従業員の法的地位を正しく理解して、
お互いが権利主張せずにお互いの立場を尊重した経営を行っていきましょう。
※本記事の記載内容は、2022年5月現在の法令・情報等に基づいています。
支援部 吉野敬子